プロレス界には、数多くの“不穏試合”が存在している。
古くは、力道山vs木村政彦の昭和の巌流島決戦から
アントニオ猪木vsグレート・アントニオ
前田日明vsアンドレ・ザ・ジャイアント
北尾光司vsジョン・テンタ
橋本真也vs小川直也
世IV虎vs安川惡斗
など、プロレスの暗黙のルールから完全に逸脱した、
凄惨な試合が行われてきた。
そんな中でも伝説化しているのが、
1987年7月18日に行われた
神取忍vsジャッキー佐藤
のケンカマッチだ。
この試合が伝説化した背景には、映像が一切出なかったことが起因している。
他の不穏試合に関しては、“裏ビデオ”として出回っているものが多く、マニアであれば一度は目にしたことがあるものなのだ。
しかし、この試合に関しては専門雑誌が状況を伝えたのみで、実際に目にしたのは会場に足を運んだ者だけだったのだ。
さらに、この試合後に神取忍の口から飛び出した「心を折ってやりたかった」という言葉が、今では一般的に使われるほど衝撃的だったというのも大きいだろう。
そんな伝説の試合の映像が、2014年、突如として動画サイトにアップされた。
序盤から女子プロレスらしからぬ地味な展開。
実力に勝る神取が何度も関節を折らんばかりの勢いで技を決める。
そして、容赦ないナックルパートでの殴打でジャッキー佐藤の顔面が変形してゆく……。
最後は、神取の関節技で完全に戦意喪失したジャッキーが降参。
伝説の不穏試合は、ウワサに違わぬ凄惨さであった。
「あの試合のとき、考えていたことは勝つことじゃないもん。相手の心を折ることだったもん。骨でも、肉でもない、心を折ることだけ考えていた」(『プロレス少女伝説』井田真木子/文春文庫より)
そう語った神取。
これを起源とする「心が折れる」は一般に浸透し、2006年より大辞林にも掲載されている。