せんべろ、角打ち(かくうち)、飲兵衛の方ならとうにご存知の言葉でしょう。
せんべろとは「千円でべろべろ」の略称。文字通り千円(代)でべろんべろんに酔うこと。
また角打ちは「角(枡)」を「打つ(呑む)」が語源とされ、現在は酒屋さんで直接お酒を購入、その場(店頭、店内)で飲むことを指します。
世相を反映してか、ここ最近、格安の居酒屋や立ち飲み屋があちこちにできました。
飲んだくれの身としては嬉しい限り。
でも、ですねえ、いくら庶民的・大衆的を謳っていても、さすがに「せんべろ」とはいかないんですよ、どのお店も。
べろべろに酔うには、やはり二千円~三千円はかかってしまう。
それでも充分安いんだけど、毎日飲みには行けませんよね。
そこでオススメとなるのが「角打ち」です。
酒屋さんで直接購入するわけですから、ほとんどの酒が定価販売。
しかもビール、焼酎、日本酒、ワイン等々、酒類の種類が豊富。
ツマミ用の缶詰、乾き物だって小売価格で調達できるのだから有難い。
バリエーション次第では千円以下でべろべろに酔うことも可能なのであります。
さて、今回お邪魔した「飯島酒店」さんも、そんな角打ち名店のひとつ。
大江戸線・牛込神楽坂駅から徒歩五分、閑静な住宅街の一角にひっそり静かに佇んでいる酒屋さんです。
うっかりすると通り過ぎてしまうかもしれないお店の軒先には「角打ち 昔ながらの立ち飲み処」という手書きの吊り看板が。
その隣りには風鈴がチリンチリン。
う~ん、風情ありますね。
店内は縦に細長く、檜を台にしたテーブルが三つ。
訪れたのはまだ陽の高い午後二時だったのですが、すでにお客さんが二名、談笑しながら角打ちしておりました。
「いらっしゃいませ。初めてですか?」
奥の帳場から麗しき女性が癒しの声と笑顔で出迎えてくれます。
どうやら女将さんらしい。
初めての来店でこのように優しく接していただけると気持ちがだいぶ楽になるなあ。
飯島酒店さんの角打ちシステムはいたってシンプル。
店の奥にある冷蔵ケースの中から飲みたい酒を選んで、帳場にて現金精算。
あとは空いているテーブルでグビッと呑むだけ。
この日は気温が高いこともあって缶ビール(スーパードライ500ml)をチョイスしました。
帳場入口のカウンターには割り箸やフォーク、スプーン、あるいは紙皿、紙コップ、プラコップの類がたくさん並べられている。
「どうぞご自由にお使いください」
そうですか、では遠慮なくプラコップを。
あ、それからツマミもいただいちゃおうっと。
カウンターそばに設置された缶詰棚からビールと相性バッチシのコンビーフをゲット。
もちろんこれも帳場で精算です。
すると女将さんが紙皿にマヨネーズを盛ってきてくれました。
いやあ、ありがたい。やっぱりコンビーフにはマヨネーズですよね!
ビールとツマミを抱えてテーブルに陣取り、プルトップを引っ張ってプシュ、プラコップにトクトク、そして一気に喉へゴクゴクゴク――
プッハー!
美味いっ!
マヨネーズをたっぷりつけたコンビーフも超絶美味しっ!
と、悦に入っていたら、いつの間にか柿の種がテーブルに置いてある。
こ、これは?
「サービスです」
嬉しいなあ。至れり尽せりとはこのことかも。
ビールの次はシャリキンとホッピーにしました。
シャリキンは一杯分の小分けのやつなのでホッピーと合わせてお値段255円。
相方には缶詰の焼鳥(塩味)を指名。
その後シャリキンを追加し、ハイボールも飲んで、けっこう酔っ払ってしまったぞ。
なのに支払ったお金は全部で千五百円!
これぞ角打ち、せんべろの醍醐味なのであります。
創業80年を誇る老舗の酒屋、飯島酒店さん。
しかし角打ちを始めたのはここ二年ぐらいだという。
「お酒を買いに来てくださるお客さんに、店内では飲めないんですかと訊ねられることが度々なりまして……。二年前の夏、汗だくで帰宅なさる皆さんの姿を見て、帰りがけにちょっと一杯引っ掛けていける、オアシスのような場が提供できればなあ、と思い始めたんです。最終的には娘たちの背中押しがあって角打ちを始めました」
そう笑顔で語ってくれる癒しの女将。
こんな飲んだくれで風来坊のような僕をも優しく包み込んでくれる飯島酒店さん。
これから先も牛込のオアシスとして多くの飲兵衛さんたちに愛され続けることでしょう。
風鈴と一緒に風になびく吊り看板。いい味出してます。
ビールのお供はこれ! マヨネーズも柿の種もお店のサービス。
シャリキンさえあれば氷不要! 小分け包装が嬉しいですね。
角打ちで食す缶詰はまた格別。他の棚には乾き物も多数陳列。
日本酒、焼酎類はこちら。もちろん角打ちできます。残ったらお持ち帰り。
飯島酒店
東京都新宿区納戸町14
牛込神楽坂駅を出て牛込北町の交差点を左。
二つ目の十字路を左に曲がり少し歩いた右側にあります。
馬場裕一(ばば ひろかず)
バビィの愛称で知られる麻雀プロ。われポン、モンド等の解説者も務める。雀荘よりも居酒屋にいる時間のほうが長いただの酔っぱらい。